樫村さんへメッセージを送りましょう。
2024年12月15日 01時49分 [システム管理者]新連載について、投稿者の樫村さんへメッセージを送りましょう。
ログインし、ログイン後に表示される
(既にログイン中であれば、
メッセージに対するコメントや返事は、表題をクリックすると表示されます。
ログインせずに上の★星マークの「いいね!」ボタンをクリックするだけでも構いません。
連載コーナー
新 四 季 雑 感 | (29) |
樫村 慶一
終身型 | 老人ホテルに | 入居して |
私は、今年(2025年)4月1日をもって95歳になった。ツクモ坂の頂上に立ったのだ。お目でたい歳を言う言い方では、60歳の還暦、70歳の古稀、77歳の喜寿、80歳の傘寿、88歳の米寿と途中の祝い言葉があるのに、90歳は途中がない、そこで99歳のツクモを、二桁年齢の最終コーナーとして、勝手に「ツクモ坂」と言ってその真ん中をツクモ坂の頂上とみた。この後、下り5年を無事降りると、1世紀生き永らえた事で、「紀寿」という、あまり使われないが、一世紀を生き永らえた者だけが得られる有難い称号が使える。幸い目下健常である。
しかし、それにもかかわらず、娘の親思いの心使いから、健常者がはいる、終身型老人ホテルと言うカテゴリーの老人施設へ入ることになり、4月1日の誕生日をもって目出度く入所? 人生最終ステージになる”終の住み家”の生活が始まった。
かって豊島園は東京でも有数の遊園地であった。東京人は知らい人、少なくとも名前を知らない人はいないだろう。2年くらい前に、閉園してハリーポッターとかの館に替わり、半分は災害時の避難場所に変った。この辺一帯は、元は国有地の農地とかで、敗戦によって住民に払下げられたとか、建物は昔の住宅基準で建蔽率が小さいため庭が広く、花壇が四季の香りを醸し、住宅地域としての制約から高さ10米以上の建物はたてられないとかで、低層家屋ばかりで静謐である。3階の屋上からは富士山が見え、後ろを見るとスカイツリーが遥かに影を映している。
ホテルは2階建てで屋上が庭園になっている1棟だけで、隣接した、本当の老人ホームとの2軒構成の施設である。、経営は此処だけの運営会社で、チエーンシステムではないので、媒体による公告宣伝は一切やらない。口コミだけが世間への接点だけど、私の入っているホテルは、1階20,2階25の合計45室で満室である。口コミだけなのに、待ち行列は数十人いるとか言われる。入居待ちの人達の内訳など公表されないから、順番は施設経営者の胸三寸のようで、顔の効く推薦者がいるとか、特別早期の入居を規模するとか、良く分からないが、運の良しあしもあるようだ。私は、陶芸家の娘の骨折りで、待機約1年で入居の番が来た。
ホテル入居者45人のうち、男は4人だけなので、男は1割に満たない。男の顔をみるのが難しい。私は、此処数年はどこへ行っても、なにをしても、必ず最長老で、乾杯の音頭だとか、締めの挨拶だとかをやらされてきたが、此処へきて、95歳がちっとも驚く歳ではなく、103歳を筆頭に98,97,96と白髪を連ねた、プロペラ時代のJALのCAとか、十大商社の跳んでいた女性管理者とか、英語ペラペラの元美女達が、私を宇宙人を見る様な目でみる。
老人ホテルの様子 (ホームページから引用) |
ホテルだから、出入りや部屋での生活や食事や入浴などに制限・制約がない。異性を連れ込もうが、ペットを抱き込もうが自由だ。それでも、静かな環境の住宅街に建つ建物だから、夜10時も過ぎると玄関に鍵をかける、しかし電話で遅くなることを告げれば、帰ってくるまで鍵はかけられない。食事は一応朝昼晩と決まった時間はあるが、事前に連絡すれば、自分の食べたい時間に部屋迄運んでくれる。入浴は備え付けノートに予約時間だけ書いておけばいい。
冒頭で書いたように、まだ入居してようやく1か月そこそこなので、新入りのほやほやである、とても隅々まで知ることはできない。最近になり、同じ境遇で老人ホームに入っている旧友から、私と同じ階に、日本でも有数の書家が居住しているいことを教えられた。燈台元暗しとはまさにこのことである。橋本華苑という97歳の女性である。実際の指導はしないけど、今年も2月に揮毫の実演をした。金子鴎亭を師匠に学んだという。金子鴎亭といえば知らない人はいない大家だそうだ、(私は無学のため知らない)。日本画の伊藤深水の様な有名な人だそうだ。私の入居前のことである。季刊で発行される小冊子に載る入居者の色々な投稿には、ここの生活に満足満足と、経営者にとっては、涙がでるような讃辞で埋まっている。嘘か本当か、おいおい答えが出て来るんだろうが、事実であることを期待して、好きなことだけやる、贅沢な人生の終末期を過ごそうと思う。
何事にも表と裏がある。いい事ばかりではない、1か月暮らしてみての、良くないことも挙げなくては公平ではない。でもよくできている施設で、あらを探しても殆どない。無理に探して2点だけお挙げておこう。まず、昼飯晩飯の副食が少ないためカロリー不足が心配なこと、ご飯と主たるおかずと副菜と汁だけである。一杯やる者には全く足りない。私は、娘が肉類、サラダ類、果物、佃煮類等を補充してくれるのえ、程ほどに満足しているが、此処の食事だけでは、カロリー不足になるだろう、もっとも、高齢者は外出することが少ないこともあるのか、それなりに満足しているのかもしれない。現在の米を始めとする高物価時代に、入居費の値上げなどは政府発表の公式数字のみの値上げしかしないと公表しているので、実質は内容で調節しているであろう、それなりに苦労しているのがうかがえる。
それと、もう一つは、豊島園駅までは約500米強なので、杖を使う者には駅が遠いこと、普通の健常者なら7~8分の距離であろう。しかし杖を使う者にはその倍はかかり、かなりの負担を感じる。天気の良い日に、散歩がてら歩くのに適した距離で、目的を持って出かけるには少し遠い。疲れての帰りは、更におっくうになるが、練馬駅からのタクシーが800円なので、これは負担にはならない。いずれも、決定的なデメリットにはならない。やはり、”いいところ”といわれる施設のようである。
私の友人で、いわゆる”老人ホーム”と言われるカテゴリーの施設に入っているのが複数人いるが、彼等からは、不満を聴く。老人ホームは、認知症の人が多いので、いろいろな制約、制限が設けられている。それが、非認知症入居者には、不自由に感じるのだろうと思う。一番多いのは、外出とか面会者の来所などの時間に制約があることのようで、そのほかにも、現金を持たせられないとか、空調などを除く自分用の電気器具が使えないこと、食事時間が一定時間内ときめられていることなどであろう。そのほかにも、あれはダメ、これはダメ、と駄目が多いようだ。これから入居を考えている人は、事前に十分調査して、入ってから後悔しないようにされることを忠告する。
最後に老人施設に入った心境について言うと、妻が先に逝って丁度10年独居生活を続けてきた。しかし3年前に一過性脳虚血症というのに襲われて、数十秒間左半身が麻痺した。健常者と偉そうにいっても、歳はあらそえないものと心配した娘が、知人を通じて手配していた。私としても、いつかは老人施設に入らないといけないな、という覚悟は持っていた。つまり、最終ステージに入る前に、もう一段の壁があると思っていたのだ。しかし、ついにその壁が取り除かれて、最後のステージに入ってしまった。いよいよこれで、後は死ぬだけか、という入る前には考えもしなかったプレッシャーに悩ませられている。今は、このプレッシャーを一日も早く消して、人生最終章の終わりを、天にまかせる心境になれるよう努力することが、精神的に唯一の負担である。 おわり
(2025.5.1)
いいね!ボタン
メッセージもよろしく
新連載について、投稿者の樫村さんへメッセージを送りましょう。
ログインし、ログイン後に表示される
(既にログイン中であれば、
メッセージに対するコメントや返事は、表題をクリックすると表示されます。
ログインせずに上の★星マークの「いいね!」ボタンをクリックするだけでも構いません。
新連載について、投稿者の樫村さんへメッセージを送りましょう。
ログインし、ログイン後に表示される
(既にログイン中であれば、
メッセージに対するコメントや返事は、表題をクリックすると表示されます。
ログインせずに上の★星マークの「いいね!」ボタンをクリックするだけでも構いません。